リサリサによる血統の始まりとファントムブラッドに対する序章としての位置づけについて:ジョジョ論

JOJO OLOGY
第1部 序論

本論文では、ジョジョの奇妙な冒険旧史における血統と物語についての研究を行う。

ジョジョの奇妙な冒険という壮大な叙事詩は、もはや漫画をゴービヨンドし芸術に昇華され、一方では小説におけるスティーブンキングユニバース若しくは映画におけるブレードランナー&エイリアンユニバースに相当するような世界観と存在感にまで到達したことは、その国民的な知名度とともに周知の事実であろう。

しかし超長期制作に伴う作中内の矛盾について、それはジョジョの奇妙な冒険においても例外ではなく存在している。その一つと言われているのが、リサリサの星形のアザ問題である。本論文を通じ、問題提起と同時に、あらためて本作を鑑賞する上での正しい見解・評価を提示したい。本論文の以下の構成は、次のようになっている。

本論文第2部では、リサリサに星形のアザが描かれていたことの問題について、独自の解釈・アルゴリズムを提案する。第3部では、提案について論拠の提示を行う。最後に、第4部で本論文の結論を述べる。

第2部 本論

リサリサの星形のアザ問題とは、ジョジョ日本八景なる絵画でリサリサの首元に星形のアザが描かれていた問題のことである。星形のアザとはあくまでジョースター家の身体的特徴として、第三部以降の物語を推進するキーワードであった。この一件について、当時ジョジョファンの間で発言されたのは、ジョースターの血族ではないリサリサに星形のアザがあるのはおかしい、という指摘である。

リサリサとは通称名で、本名は存在したであろうフルネームを挙げるならばまず、エリザベス・ジョースターである。波紋法の総帥ストレイツォを育ての親に持つが、私の記憶違いが無ければ、ジョージ2世と結婚する以前にエリザベス・ストレイツォといった姓名であったことは公式では語られてはいないと考える。ハリウッドの脚本家と再婚してからは不明ではあるし、そもそもスピードワゴン財団の協力を得て失踪中には既にジョースターの姓は戸籍上でも捨てた上でリサリサと名乗っていたのかもしれない。

さらにエリザベスという名も、ジョナサン・ジョースターやその妻エリナが乗っていた船の客船名簿等から確認できた本来の実名なのか、それともストレイツォ等がゴッドファーザーとして名付けたものなのかも不明である。しかし、本論文ではエリザベスが本来の実名であるとして進めるものとし、また本来の姓などに対する考察については後述とする。

リサリサことエリザベスは、ジョナサン・ジョースターの息子ジョージ・ジョースター2世の妻であり、ジョセフ・ジョースターの母である。よって、ジョースターに嫁いだエリザベスは、ジョースターの血を引いているわけではない。ジョースターの身体的特徴である首元付近に現れる星形のアザは、あくまでジョースターの血を受け継ぐ者だけの特徴である。

しかし、本編第六部ストーンオーシャンの、星形のアザをもつと言われるジョナサン・ジョースターと融合したDIO、そのDIOの骨から生まれた星形のアザをもつ緑色の赤子、その赤子と融合したエンリコ・プッチに星形のアザが発現したことによって、プッチの兄弟であるという所以から、同じく星形のアザが発現したウェザー・リポートことウェス・ブルーマリンの例もある。

つまり、直接的に身体の中にジョースターのDNAが無くても、星形のアザが発現する可能性はあるのだ。しかしながら、ウェス・ブルーマリンの件については、破壊と創造からなる宇宙の一巡という壮大なプロットの始まりによる影響を受けた、そういった大義名分がある。ジョジョ世界が虚無主義・永劫回帰との邂逅を果たした歴史的イベントに伴うもの、という説明には納得できる。

その一方でエリザベスがジョースターとの接点である息子ジョセフの影響で星形のアザが発現するというケースは、あまり合点がいかないのである。

これより、本論文で仮定する。

エリザベスの血統を、例えば映画ターミネーター3のヒロインにあやかって、仮にブリュースター家と名付けよう。エリザベス・ブリュースター、1888年12月生まれ。

1889年2月7日、両親とともにアメリカ行きの客船に乗船していたところ、ディオとジョナサン・ジョースターの戦いに遭遇、運命的な巡り合わせからエリナ・ジョースターとともに、爆破、沈没していく客船から脱出する。波紋法の総帥ストレイツォに引きとられ、その後継者となり、成人後に故ジョナサン・ジョースターの子、ジョージ2世と結婚、息子ジョセフを授かる。

ジョージ2世がイギリス空軍司令官として潜んでいたゾンビに殺害されたことから、その復讐を果たすとスピードワゴン財団の協力を得て失踪、以降はリザ・リサと名乗り始め、時を経てやがてその通称はリサリサに定着した。

エリザベス・ブリュースター、これほどまでに数奇な運命を辿ってきた者はいない。その出生から既に、あらゆる覚悟を背負って生きてきている。

そしてこの人物こそが、その子孫である歴代のジョジョ、つまりジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助、空条徐倫の血統の始まりなのではないか。これこそが本論文が提示するテーマであり、矛盾に対する指摘に向けて主張したいアンチテーゼである。

エリザベスの血統ではないジョルノ・ジョバァーナの存在については、さらに後述としよう。

第3部 考察

エリザベス・ブリュースター(仮)、冷静沈着な性格、クールな物腰、隠された情熱はまさにジョースターの顔役、空条承太郎その人である。そして絶対悪に対抗するべくして身についたであろうアンダーグラウンドな不良性は、後の子孫からは垣間見える性格であるが、紳士ジョナサン・ジョースター、ジョージ・ジョースター1世・2世には無い要素だ。

ジョナサン・ジョースターについて、彼ほどの偉大な人物はいない。彼こそがジョジョ世界のファントムブラッドラインであり、最初にその道を示したからこそ旧史における黄金の精神という概念が成り立つことに、最大限のリスペクトをさせていただきたい。その上で、搾取され続けてきた悲運の血統に終止符を打った者、それが英雄エリザベス・ブリュースターなのだと考える。

ジョジョ日本八景におけるエリザベス・ブリュースターの首元に描かれた星形と思われるアザ、これは実のところ本人の長髪に隠れて完全な五芒星としての形は確認できない。その星形は頂点が3つほど認められるが、概ね半分は欠如している。

ここで、実際に五芒星は半分欠けているものと推論する。

つまり、ブリュースター家の人間には首元に半分の五芒星のアザが存在する。そして、ジョースター家の人間にも首元に半分の五芒星のアザが存在したとする。エリザベス・ブリュースターとジョージ・ジョースター2世の子であるジョセフ・ジョースターや以降の子孫には、両家の血統から完全な五芒星のアザが出現するようになった。

以上が、リサリサに描かれた星形のアザの正体・ロジックであり、可能性の一つとして提案したいことである。

では、第三部でDIOが乗っ取ったジョナサン・ジョースターのボディにある完全な形の五芒星のアザはどう説明できるのか。これはジョースターの肉体から発信されるシグナルによるもので、タイミングとしては空条承太郎にスタンドが身についた時点付近で、ジョナサンのボディに元々あった五芒星の欠片が完全体に変異した後に、ジョセフ・ジョースターの念写に映り込んだのではないかと考えられる。

承太郎たちの最大の目的は承太郎の母ホリーの呪縛を解くことであると同時に、DIOという怪物に蹂躙された先祖の無念を晴らすリベンジでもある。ジョナサンやジョージ2世まで、ひいてはリサリサが保有していた星の欠片=スターダストがまさに第三部の副題スターダストクルセイダースの表すメタファーなのだ。

過去に副題について、第三部はスターダストトラベラーズと名乗られていた時期があった。変更の意図は不明ではあるものの、ジョジョという作品は作者荒木氏の能力なのか、作品自体のもつ運命的な向心力なのか、稀に現実世界とリンクする予知のような逆メタフィクションを生み出すことがある。そしてあながち、確かにクルセイドという響きでなければ、この星の欠片のリベンジは語れなかったのかと憶測するのである。

血統の始祖に、エリザベス・ブリュースターを据え置く。その真意は、ジョジョの奇妙な冒険という深紅の秘伝説を、エリザベス・ブリュースターが活躍する第二部戦闘潮流から読み始める、という趣旨がある。

つまりは、戦闘潮流を第一部として扱う。

第一部戦闘潮流、エリザベス・ブリュースターと闇の一族の戦い、その決着をつけるジョセフ・ジョースター。物語最終の相手は、究極の生命体に進化を遂げたアルティメットシィング・カーズ。

そして、このアルティメットシィングこそがカーズが求めた究極の力であり、ストーリー上における原初のスタンドであると明言したい。なぜならば、アルティメットシィング=スタンド、もしこれが事実であればファントムブラッドが序章ファントムブラッドとしてより輝きを放つのは自明だからである。

さらに第五部黄金の風について、元来その内容は外伝的であると言及されてきたが、確かにジョルノ・ジョバァーナにエリザベス・ブリュースターのDNAは無い。どちらかといえば、ジョースターよりDIOの血統について語られているストーリーだ。ここで懸念されるのは、もしジョルノの子孫、斯くあるべきは例えばジョルノのトリッシュ・ウナとの子孫がもしも存在したとしたら、おそらくブリュースターの血族と敵対する最大の勢力となる虞があるのではないか、などと不思議と物語の展開を期待してしまうのだ。

このようにジョジョの奇妙な冒険という大河は、これからも悠久の考察が巡らされていくのだろう。

第4部 結論

描かれた星のアザは、運命的な必然性により在るべくして有るものだ。

ジョジョの奇妙な冒険旧史、それはリサリサの血統から始まる、一貫してスタンドの物語であり、ファントムブラッドはあくまで偉大なる序章という位置づけになる。究極のスタンド、アルティメットシィングの誕生とその追放を描く、戦闘潮流こそが真の第一部と成り得ることをここに提唱したい。  

 2023/4/1

追記:

本件は可能性の一つとして考察したものであるが、先日、ジョジョ展のドローイングアートにふと目を向けると、バンダナを巻くジョナサンに完全な星形のアザが描かれていることを確認した。ジョジョ日本八景の第一部バージョンでジョナサンに描かれている星形のアザは、リサリサと同じ程度に頂点2つは視認できず、五芒星としての形は認められないといえる。しかしながらドローイングアートの一件以降、他の媒体におけるジョナサンの描写について確認作業をした結果、ジョジョアニメ第一部において、ジョナサンがタルカスを倒すシーンで一瞬だけ完全な星形のアザが写っていることを認めた。

ジョジョアニメは「シーズン1で第一部と第二部」を描き、「シーズン2で第三部」を描いており、まさに本論考の結論を体現しているジョジョメディアの最高峰といえる。よって、本論考における「星の欠片=スターダスト」説はあくまで、原作限定としての一案であることを改めて提言したい。

そして、新たな可能性としてジョナサンの血統は「山吹色の星」、リサリサの血統は「藍色の星」であり(ジョジョ日本八景におけるカラーに準拠する)、「山吹色=黄金色」としてジョナサンの黄金の精神は子孫に受け継がれていったと解釈したい。

2024/2/16

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